バイアグラによるアルツハイマー病予防及び治療の可能性

2021年に米国の学術誌で発表された研究では、バイアグラの有効成分シルデナフィルを服用していた人は、6年間の追跡でアルツハイマー病を発症するリスクが約69%低かったと報告され、予防や治療への応用可能性が注目されました。

その後2024年の大規模研究でも、ED治療薬を服用していた男性は、服用していない人に比べてアルツハイマー病の発症リスクが18%低いことが示され、血流改善や神経細胞への作用が関与している可能性が指摘されています。

日本では2030年以降、認知症患者と予備軍を合わせて1,100万人を超えると推計されており、すでに承認され安全性が確認されているED治療薬に認知症予防効果が立証されれば、将来的に治療選択肢が広がる可能性があります。

バイアグラ服用者はアルツハイマー病の発症リスクが69%低い

「バイアグラ」や「レバチオ」という商品名で広く知られている有効成分「シルデナフィル」が、アルツハイマー病の予防や治療に対して有効性を示す可能性があると、2021年12月6日に米国「Nature Aging(ネイチャー・エイジング)」という学術誌で発表されました。「バイアグラ」は勃起不全治療薬、「レバチオ」は肺動脈性高血圧の治療薬として米国や日本で承認されていますが、今後アルツハイマー病の治療薬としても用いられる可能性が出てきました。

バイアグラを持つ男性

アメリカ国立衛生研究所(NIH)傘下の国立老化研究所(NIA)の支援のもと、この研究をしたのは、アメリカのクリーブランド・クリニックのFeixiong Cheng博士が率いている研究グループ。アルツハイマー病の原因と考えられている「ベータアミロイド」と「タウタンパク」のどちらか一方ではなく、両方に作用する成分が、アルツハイマー病の治療に有効であると考え、アメリカ食品医薬品局(FDA)が既に承認している1600以上の医薬品を調査した結果「シルデナフィル」が最も有望な候補として選ばれました。

さらに、研究チームはアメリカの患者700万人以上の医療費請求データを基に、「シルデナフィル」の服用者と非服用者を比較しました。その結果、「シルデナフィル」を服用していた人は、6年間の追跡調査でアルツハイマー病を発症する可能性が69%低いことが明らかになりました。

どのように作用するのかはいまのところ明確ではありませんが、細胞培養試験では、研究者らはアルツハイマー病患者由来の幹細胞からニューロンを増殖させ、細胞をシルデナフィルに曝露すると、ニューロンを互いに接続する神経突起の成長が増加し、アルツハイマー病の初期バイオマーカーであるリン酸化タウタンパク質が減少したと発表されています。

ED治療薬の服用で、アルツハイマー発症リスクが18%低い

また、上記発表から3年後の2024年2月7日、イギリスのユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のRuth Brauerらの研究でも、勃起不全治療薬(ED治療薬)バイアグラ(有効成分:シルデナフィル)、レビトラ(有効成分:バルデナフィル)、シアリス(有効成分:タダラフィル)の服用はアルツハイマー発症リスクを低下させる可能性があることが発表され、米国神経学会(AAN)の学術誌「Neurology」に掲載されました。

公園を徘徊する認知症の男性

勃起不全(ED)と診断された40歳以上の男性26万9,725人(平均年齢58.5±10.0歳)のデータを解析し、ヒトの認知機能に対するED治療薬の影響を中央値5.1年の期間追跡調査しました。ベースライン時点で認知機能の低下が認められた患者は、この研究の対象から除外されています。

追跡期間中、1,119人が新たにアルツハイマー病(AD)と診断されました。ED治療薬の処方を受けていた群では、アルツハイマー病の発症率が1万人当たり8.1人/年だったが、ED治療薬の処方を受けていなかった群では、1万人当たり9.7人/年がアルツハイマーを発症したと報告され、ED治療薬を服用している群の方が、発症リスクが18%低かったと報告されました。

研究者らは、ED治療薬が毛細血管を拡張して血流を増加させることによる効果や、脳内に成分が移行することができるのであれば、直接、神経細胞(ニューロン)に働いている可能性があり、今後検証する必要があるとしています。

2026年2月:バイアグラが優先候補に(3候補の一つ)

近年は、まったく新しい薬をゼロから作るだけでなく、「すでに使われている薬を、別の病気に活かせないか(適応再検討/ドラッグ・リポジショニング)」という研究も盛んです。アルツハイマー病の分野でも同じ流れがあり、2026年2月にその動きが一歩進みました。

英国の研究グループが、既存薬の候補を幅広く洗い出し、国際的な専門家の意見をまとめて「次に、臨床試験で優先して確かめるべき候補」を絞り込んだところ、次の3つが”優先候補”として挙げられています。

  • 帯状疱疹ワクチン(Zostavax):免疫・炎症の経路が、アルツハイマー病の病態と関係する可能性がある点に注目。
  • シルデナフィル(バイアグラ):血流や細胞内シグナルの経路を通じて、神経保護に関わる可能性が示唆されています。
  • リルゾール(riluzole):神経系に作用する薬で、神経細胞の保護や関連経路への影響が研究されています。

今回の発表は、「効くと証明された」という結論ではありませんが、こうした”優先候補”が出てくること自体は前向きなニュースです。理由はシンプルで、既存薬は安全性情報がすでに蓄積されているため、条件が整えば新薬より早く検証が進む可能性があるからです。
一方で、アルツハイマー病は病態が複雑です。候補が見つかった段階では、まだ「入口」に立った状態と考えるのが現実的です。

2030年には認知症予備軍も含めると1,100万人を超す勢い

2030年認知症患者数推計523万人、予備軍593万人に

厚生労働省研究班が2024年5月に公表した調査結果で、認知症の患者数が2030年に推計523万人にのぼり、認知機能レベルが年齢相応レベルより低下している予備軍は、2030年にも593万人に達すると推計しています。予備軍を含めると、1,100万人を超える計算になります。さらに、団塊ジュニアの世代が65歳以上になる2040年には584万2,000人となり、65歳以上の高齢者6.7人に1人(約15%)が認知症になると推計され、大きな社会問題となっています。認知症にはいくつかの原因がありますが、脳内に変異たんぱく質の「アミロイドβ」が溜まり、神経細胞を破壊するアルツハイマー病は、認知症の原因の半数以上を占めており、予防や治療法の確立が急がれます。

レケンビ200mgと500mgの画像
レケンビ点滴静注の概要

国内では、2023年9月25日、日本のエーザイ社と米国のバイオジェン社が開発したレカネマブ(商品名:レケンビ)が、「アルツハイマー病による軽度認知障害、および軽度の認知症の進行抑制」の効果・効能で厚生労働省に承認されています。さらにその後、2024年9月24日にはドナネマブ(商品名:ケサンラ)も同じく早期(軽度認知障害/軽度認知症)を対象とした治療薬として承認され、2024年11月20日に薬価収載、11月26日に発売となりました。すでに医薬品として日本やアメリカで承認されているED治療薬にアルツハイマー病の予防や治療効果が立証されれば、短期間でアルツハイマー病薬として承認される可能性があり、さらなる研究が待ち望まれます。


監修者情報

本記事については、すべて浜松町第一クリニック院長である
竹越昭彦が監修しています。

竹越昭彦
院長 竹越 昭彦 (たけこし あきひこ)

略歴

  • 1966年生まれ
  • 1991年 : 日本医科大学卒業
  • 1991年 : 日本医科大学付属病院
  • 1993~2002年 : 東戸塚記念病院 外科
  • 2004年10月 : 浜松町第一クリニック開院
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